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短めの一次&二次創作を思いついた時に更新します。本館はプロフィール参照です。
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一ページに収まりきれないなんて……さすがサクさんだぜ!
次からどうぞ。続きは「Loveself 7 ②」です。



 
天才と凡人・2
 
俺が特定の人物と関係を持つ際に、一つだけしている『約束』。
それは、どんなたわいのないことでもかまわないので―――自分の周辺のことを話すことです。
クラスメイトで今どんな授業が行われているか、近くにどんな店ができたか、友人とどこで遊んだか―――そんな下らないことで構いません。
異質な俺にはごく当たり前に体験できないこと―――そんな話を聞いているだけで、俺は楽しくて仕方がないのです。
そして、今日も。
俺は、彼らと会話を交わします。
……いえ、それを会話と言うのは間違っているかも知れません。会話というのは、立場の同じもの同士で行われるものだと俺は思うからです。
『異質』な俺と『普通』な彼らでは『会話』にはなりませんよね。
 
……え、お前は一体どれだけの人数とそんなかかわりを持っているのか?
そんなに知りたいのですか?貴方は今までに食べたパンの枚数を覚えていますか?僕もそれと同じです。
第一、知っても面白いことなどないと思います。特に女性はあまり聞くものではありませんよ。俺はこう見えても紳士ですからね。
しかし、あえてその質問に答えるなら、俺はこう言うことができますね。
『俺を求める人間の数』、と。
 
 
皮膚を指すような太陽に、俺は目を覚ましました。
「……ん……」
視界が定まりません。いけませんね、もし誰かに闇討ちでもされたら対処できません。
もう少しすっきりと目覚められるようにならなければ。そんなことを知っている人が俺の知り合いにいるとは思えませんがね。
「……傑、起きたか?」
彼は保健室のベッドの脇に腰掛け、困ったような迷ったような、そんな表情を浮かべています。おそらく起こそうか迷ってくれたのでしょう。結局起こしてはくれなかったようですが。
「……ふぁい、起きてます。よく眠れました。夢まで見ましたよ。大人になった俺が見知らぬ女に憎々しげな視線を向けながら会話するだけの夢でした。性格までは覚えていませんが、あの女はおそらく俺の嫌いなタイプですね。きっと将来は俺の怨敵になるのでしょう。 それだけは言いきれます。」
「……なんであんなことの後にそんな平然と眠れるんだ?」
彼はそう言って、少し気恥ずかしそうに視線をそむけます。何を恥じらっているのでしょうか?恥ずかしいのならそもそも俺と(自主規制)な関係など持たないと思うのですが……俺には理解できませんね。
「慣れましたから」
彼は3年生の男子生徒であり、名前は―――おっと、これは禁則事項ですね。やすやす他人のプロフィールを話してはいけません。ましてや日が当たることのない行為をしているのならば尚更でしょう。
「……慣れ、ねえ」
何故か彼は、呆れたようにつぶやきます。
「そりゃあ慣れますよ。毎日同じ朝食を食べていたら何が出てくるか覚えるでしょう?時々コーヒーが牛乳に変わったり、スクランブルエッグが玉子焼きになったりする、その程度の変化しかありませんし」
「……」
彼は何かを考え込むかのように黙りました。
少し複雑そうな顔なのは何故でしょうか。
俺はもう一度欠伸をします。
「傑、さ、」
彼が、俺の名前を呼びました。
彼―――とは言っても、残念ながら水口在野という『異質』ではありませんが。
「はい?」
「……なんで、こういうこと、してるんだ?」
彼はとても気まずそうに―――それでいて可哀想だとでも言わんばかりに―――俺にそう問いかけてきました。
……彼には何か誤解をされている気がしますね。
彼の中の俺はおそらく『自分の身を売らなければ生きていけない可哀想で憐れむべき美少年』なのでしょう。それはそれで悪くはありません、気分は良いですね。
薄幸の美青年、キャッチコピーとしては上等です。
しかし誤解は誤解なので、そのままにしておくべきではないでしょう。
「趣味と実益です」
「……………………」
相手の顔が青ざめた気がしますがきっと気のせいでしょう。
だから俺はバイだと何度も言ったはずなのですが……。やはり同性愛というのは日本では受け入れにくい文化のようです。
江戸の時代には花魁などは珍しい存在ではなかったはずなのですがね?歴史の人物で男色の気があった人物はどれだけいることか。古代ギリシャでは同性愛は異性愛より完成された愛の形だったのですよ?
 
彼は、少し迷ったように視線をさまよわせた後、俺に何かを言いたげに唇を動かします。
「……こんな言い方ってどうかと思うけど……傑って……」
「どうしようもない変態ですよ?」
とりあえず聞かれるまえに答えましたが、何か。
彼の言いたいことに見当はついていますし。
「……い、いや、そんなにはっきり言われても……」
はっきりも何も、事実ですけどね。
俺は彼に向かって、得意げにさえ思いながら、宣言します。
「俺は変態で変人で、普通の人間には到底なれない異常です。貴方のような普通の人間の引き立て役にすぎない。俺はそんな自分が好きですし自分を誇りに思いますが、それでも貴方達の方が俺より優れているという事実に変わりはない。ですから俺は皆さんが喜ぶのでしたら基本的に拒まず従いますし、俺自身も貴方達のような普通の人間は大好物なのです。ギブアンドテイク、需要と供給という奴ですね」
「……その考え方、さっぱり理解できないな」
「理解しなくて構いません、貴方のような普通の人間には、俺を理解する必要などない。俺は俺だけが理解していればいいのです。……たとえ友人であっても、恋人であっても、貴方であっても―――俺を理解することはできない。してはいけない。俺は―――異常なのですから」
そう、誰も俺を理解することはできません。
言葉の意味を理解できない、ということではありません。人間はそこまで馬鹿ではないでしょう。余程の人間でなければね。
俺が言いたいのは、それを『感覚』として理解できるかどうか、の話です。
『自分のことを他の人間より下の存在であると深く認め、それでも自分に絶対の自信を持っている』……そんな矛盾した思想を、説明することは容易ではないでしょう。俺も自分でそう思います。
俺は自称してそれを『天才』と呼びますが、この場合の天才と言うのは一般的にイメージされる秀才の上位表現、という意味ではありません。
天才―――すなわち、天災。人間が意図したわけでもないところで勝手に起こりえる出来事。いわば自然現象のそれと掛けた表現です。
俺は望んでこうなったわけではない、ただ生まれたときからすでに「人間以下」だった。俺の両親の卵と一億の精子のうちのひとつが結合したときに、何らかの異常が俺を蝕んでしまった。それだけ。つまり―――『この』俺は、『偶然』こうなってしまった、そしてそのように育ち、こんな変態になった。それだけなのです。
なるべくして?そのような運命?反吐が出る。そんなこと―――考えるだけで発狂しそうだ。
俺は誰に決められるまでもなくそう生まれた。神?いえ、神などではない。あくまで自然に起こる出来事のひとつです。昔の人々はよく火事や自身を神の仕業だと考え恐れたといいますが、それは火山やマントルやマグマに失礼ですね。科学的な理由があるにもかかわらず、神のせいとして怖がられるなんて、彼らがいかに心を痛めたか想像にかたくありません。
「だから、貴方が俺を理解できない、それは当然のことなのですよ。貴方を侮辱しているということではありませんから安心してください」
だから。
貴方が俺を理解できないことを―――気に病むことはどこにもないのです。
 
「それは、―――」
彼は、何かを口にしかけ、―――噤みました。
何を言いたかったのでしょうか。俺をフォローしてくれるつもりだったのでしょうか。ありがたいことですが、俺には必要ありません。
「……いいや、何でもない。……もう時間だし、教室に戻るよ」
「ええ、いってらっしゃい」
何を言おうとしたのかは気にならなくもありませんでしたが、俺のような存在が人間を追及するのもおこがましいでしょう。第一、俺のポリシーは何事においても去る者追わず、来るもの拒まずです。言いたくないのならばわざわざ問い詰めたりはしませんとも。
 
彼はそれだけ言うと、俺の方を振り向こうともせず保健室のドアを開け―――
そして。
彼が最後に残した言葉だけは、はっきりと聞きとれました。
―――そういうのって、寂しくないか?
 
ぱたりとドアが音を立ててあるべき場所へと戻っていきます。
 
―――寂しい?
それは、どういった意図なのでしょうか。
ただ、俺は首を傾げます。
 
俺には分かりません。
俺には友人と呼べる存在がいて、普通の人間とも戯れる時間も余裕もある。在野のような、特別な存在の人間もいる。
嫌いな人間はいますが、脳内から存在を抹消すればいいだけの話。
それに、俺はこんな異常で普通以下の俺が好きです。こう生まれたことを、悔やんだこともありません。地震が起こることに恐怖したり逃げようとする人間はいても、悔やむ人間はいないでしょう?
なぜなら、それはどうしようもないことだから。ただ、受け入れるしかないことなのです。だから俺は受け入れた。自分は人間以下の『異常』だと認めた。もちろん普通の人間に憧れはあります。しかしそれでも、俺は今の俺が好きです。何の不満もありません。恨みごと1つすらありません。
それなのにどうして、俺が寂しいのでしょうか?
普通の人間ならそれが分かるのでしょう。ですが、俺にはそれが分からない。
そう、俺には分からないことが多すぎる。一般的な知識だけならその辺りの人間よりは豊富でしょうが―――代わりに、誰でも持っているべきものを、俺はごっそりどこかに忘れてきてしまっているようです。
ですから、どうしてそれが寂しいと言われるのか―――その理由に検討もつきません。
だから俺は普通の人間が好きなのだと―――もう何度つぶやいたことでしょうか。
 
「……ふあ……」
眠い。眠いのですよ。いえ、先ほど確かに眠りはしましたが、それでもまだ俺の身体は睡眠を欲しているようです。
人の形を持って生まれてきた動物には、睡眠欲・食欲・性欲の三種類を必ず持ち合わせていますが、俺はどうやら真ん中を除いた二つの欲が突出しているようです。食事など3日ほど口にしなくても生きていけますが、徹夜だけはいまだにできた試しがありません。性欲に関しては―――俺は女性の前でそんな話をするほど変態紳士ではありません。
まあ、俺にとっては三大欲の中で一番必要ないのは食欲であることは間違いないでしょう。
そんなだからお前は女みたいな体型なんだと言われましても俺にはどうしようもできませんよ、言っておきますが。
「…………あと一時間くらいならいいですよね」
あのクソ女もしばらくここには来ないでしょうし、問題はありませんね。
彼には慣れたとは言いましたが、やはり体力は使います。……あまり詳細は聞かない方がいいと思いますよ?
 
……よし、やはりいったん眠りましょう。欲に逆らうのも馬鹿らしいですしね。
おやすみなさい。
 
 
……の、はずだったのですが。
 
「……さっくん?さすがに寝すぎじゃないかしら。これ以上寝るなら……ふふ?」
「とりあえずどこを触っているんだこの痴女」
……畜生。
不快な女の声と怖気が立つような感触で目が覚めてしまいました。
せっかくいい具合に眠っていたのに……まだ一時間も経過していないではないですか。
え?この女は誰、ですって?そんなこと聞くまでもありません。口にしたくもありません。そもそも存在自体を認めたくもありません。
地獄に堕ちろ。そして俺の前に二度とその醜い面を晒すな。
「いやねえ、たださっくんが男の子なんだなあってことを定期的に確認したいだけなのに」
「病気かてめえは、死ね」
病気は病気、でしょう。この痴女は男に対して欲情していないと気が済まない(自主規制)ですからね。まさしく(自主規制)のようなものです。
とにかく迷惑だ。この女と同じ空間の酸素を吸っていると考えると俺の肺を取り出して酸素だけ吐き出したくなりますね。
「あらあら、怖いわねえさっくん。私に怒る分には全然構わないけど、これから女の子がここに来るから静かにしておいてね。今日はもう誰の相手もしないんでしょ?ていうかね、さっくん。せめて後処理くらいちゃんとしなさい?さっくんは別にいいかもしれないけど、私みたいに純粋な女の子が見たら卒倒しちゃうわよ」
「……てめえはいつ女もいける口になったんだよ。真性の(自主規制)だと思ってたが。……あと純粋って言うのには突っ込まないからな」
そう口にしてしまった時点で負けな気もしますが、この女なので何の問題もありません。
「違うわよ、何言ってるの。女の子になんかこれっぽっちも興味はないわよ?ただこれでも私保健医だしね、女の子の悩み相談を受けたりしなきゃいけないのよ、知ってるでしょ?」
知ってはいますが、あれを悩み相談と言っていいのかどうか。
この女の悩み相談とは名ばかりで、最終的にはいつも男のことしか語らないくせによく言いますよね。早くくたばってしまえ。
男好き、と言われると遠坂妃芽と同じように感じるかもしれませんが、この女は自分が好きなのではなく男が好きなのですよ。病的に。そして肉欲的に。基本が自己愛に置かれている彼女とは違うタイプです。個人的に、遠坂妃芽はそれほど嫌いではないですしね。
10ほど年の離れた俺に対して4歳のころからこのようなセクシュアル・ハラスメントを働いていた、と言えばお分かりでしょう。
それでいてこの女は普段はその性欲をひた隠しにし、普通の女性のように振る舞い続けている。自分が淫乱な雌豚だという事実を隠し、男に純粋なふりをして近づく。もっとも、在野のような鈍感な人間が見ても分かる程度には露出が激しいようではありますが、それでもまさかここまでの性欲の権化だとは思われていないに違いありません。
―――え?どうしてそんな小さいころからこの女と知り合いなのかって?……いいですか、世の中には知らなくてもいいことと悪いことがあります。好奇心は猫をも殺す、その言葉の意味は、……分かりますね?
閑話休題。この女、自分では『大人っていうのはいくつもの仮面をかぶらないと生活していけないのよ』などと偉そうに語っていましたが、この女の場合は仮面以前の問題です。
俺が自分を演じる人間が大嫌いなのも、この女が原因だと思っていいでしょう。
ああ本当に腹立たしい。今すぐその首を絞めて殺したいのですが、そもそもあの女に触りたくないのでどうしましょうか。
「……知るかよ屑」
「どうしてそう口が悪いのかしらねえ。ほら、さっくん言ってみてよ。『せんせえ、僕せんせえのことだいすき!」って。似合うと思うわよ」
「先生、俺は先生のこと大好きです。大好きすぎて思わずあの世に送りたくなってしまうのですがどうしたらいいのでしょうか?」
「ヤンデレって奴ね?嫌だわ先生困っちゃう、さっくんにそんなに愛されていたなんて」
……このクソ女が。皮肉にすら動じねえ。
……おっと、いけませんね。地の文ではこのキャラを通さなければ。この女を罵るのは台詞だけにしておきましょう。
「てめえ……」
「あ、もうこんな時間。生徒が着ちゃうからそこで寝ておいてね。口は出しちゃだめ。あと、早く服を着なさい」
この女はわざとらしく立ち上がり、俺の体をとんと無理やりベッドの上に押し込むと、カーテンをぴしゃりと閉めました。おまけにバスタオルまで放り込まれたのはなんの嫌がらせでしょうか。風呂に入れないならせめて拭きとれと言うことでしょうか。何故この女の言うとおりにしないといけないのでしょうか。
自分だって家では(自主規制)なくせに、保健室だけは汚したがりませんからね、この女は。何の見栄を張っているんだか―――さっぱり理解できません。
抵抗したかったのは山々だったのですが、残念ながら俺は(見たままかもしれませんが)力が強いほうではないので、押し切られてしまいました。この阿婆擦れが。死ね。氏ねじゃなくて死ね。
……ふむ、在野から教えてもらった言葉も、一見スラング用語のようでいて実に奥が深い。これからは『彼ら』との会話の際にも利用していきましょう。べ、別にこんなことするのはあんたのためじゃないんだからね!……でしたっけ。
 
俺は服に袖を通しながら、隙間から外の様子をうかがいました。
……いえ、別に覗きの趣味があるというわけではありません。口は出すな、と言われたので、じゃあ目は出しましょうと思っただけです。俺は人の会話、悩みも含めてですが、を聞くのが大好きなのでね。あの女に反対されるとついつい逆らってしまうそんな性なのです。
ええ、そうですね。俺は子どもでしょう。おそらくは、単純に。
お茶目とも言いますが。
傑作為、永遠の17歳です☆という徹底して年齢を偽る言い回しは受けるんだ、17歳教だ、と在野が言っていました。……ええと、どさくさまぎれに俺の年齢を問うたりはしませんよね?
 

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