短めの一次&二次創作を思いついた時に更新します。本館はプロフィール参照です。
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プロローグ④
続きからどぞー。
天才と凡人・1
俺の知り合いには、自称女神を名乗る女性がいます。
彼女は麗しい容姿とたぐいまれな才能を持っており、それが故に自らが人間を超越した存在、すなわち神だと主張しているのだそうです。
愚かしいと思いませんか?
烏滸がましいと思いますよね?
彼女『ごとき』が、人間の頂点を名乗るなんて。
さらに、人間の頂点を名乗るものが神だなんて、全く巫山戯ている。彼女の頭の中は藁でも詰まっているのでしょうか?あまりの矮小さに笑いさえでませんね。
何故って?そんなことをわざわざ口にしないとわからないのですか?
だって根本的に彼女の言っていることは可笑しいじゃあないですか。
神が人間より上―――それはギャグで言っているのでしょうか?
だとしたら全く面白くも何ともありません。神が人間を超えた存在などという馬鹿なことが有り得るはずがないではないですか!
もし神の方が人間よりも優れているというのなら、俺は今すぐ全裸で街でも歩いてみせましょう。
いいですか、貴方の頭を限界まで使ってよく聞いてください。
人間は―――神以下などではない。むしろ―――人間に及ぶ神などはいないのです。
神を信仰するのは人間です。犬や猫のような生物は神を敬うなどと言う生きるに全く必要のない無駄な浪費をしません。神に金を掛け、意味もわからない聖書や歴史書を読んで知ったかぶりをして喜ぶことはこの世界で人間以外に誰が出来るのでしょうか?
神は、信仰者がいるからこそ神となる存在にすぎない。俺に言わせれば、神なんてその辺りにいる蟻以下ですよ。蟻でさえ、自分の役割を自ら自覚し、身を粉にして働いているのですからね。そもそも、神など現実に存在するかどうかすら信用できないというのに。
罰当たり?ええ、罰などあてられるならぜひやってみればいいのではないですか?
俺は神などという存在は一切信じませんし、何をされようともそれが神の罰などと思わないでしょう。どんなに人知を超えたことであってもね。
それでも神が俺を裁きたいというのなら、お好きにどうぞ。
信じない者まで裁きたがる(自主規制)の小さな神など、人間以下も以下、家畜以下、産業廃棄物以下の屑でしかないことでしょうしね。
※
「よー、サク。今日はどうよ?元気だったか?保健の先生とよろしくしてなかっただろうな?いや、だって杏先生って最強にエロいじゃん。あの人あんな露出激しくてよく怒られないよなってくらいだよな。噂じゃ校長も誘惑してるって聞いたけどさ、あの人の場合タチの悪い嘘だと言いきれない雰囲気のとこがまたすごいっつうか、うん」
―――俺を眠りから覚醒させたのは、よく知る彼の声でした。
相変わらず騒々しい―――その騒々しさは五月の蠅以上電車のガード下以下、概算で90~100デシベル程度と言ったところでしょうか。
彼はいつも通りの笑顔で、俺のいるベッドの隣の椅子に腰掛けました。
「貴方のその発言は実に不快です、在野。どうして俺があんな雌豚とよろしくしないといけないのですか?何度も言ったと思いますが、大切なことなのでもう一度だけ言います。俺はあの女が大嫌いなのです。本来ならばこうして保健室に通い詰めてあの女の半径100メートル以内にいることも不快なのですが、譲歩してここにいるのですよ?」
「うわあ、しょっぱなから出たよサクのぶっ飛んだ暴言が……人権団体にいつ訴えられてもおかしくないよこれ」
「豚を豚と屑を屑と金魚の糞を金魚の糞と言って何がいけないのでしょうか?俺は真実を口にしているだけですよ」
「いや、いけなくはないけどさ、理解できないんだって!だって杏先生だぜ!?毎日保健室登校のくせに杏先生にムラムラしないお前がおかしくない!?本当に男!?ついてるの!?ありえねえ!」
「俺を獣と同類にしないでください。女性の胸部などただの脂肪の塊以外の何だと言うんですか?特にあの女の所持品だと言うなら尚更です。考えるだけで忌々しい。あんなものに欲情するくらいなら犬や猫と獣姦でも決め込む方が6億万倍ましというものでしょう。『愛くるしさ』というのは時に性欲へと変換可能ですから、そちらの方がまだ人間として至極まともな感情と言えるのではないですか?ロリコンと呼ばれる人種ならこの気持ちはよく分かってくださると思いますが。第一俺はあの女と同じ家に住んでいるのですがね」
「……うん、お前の感覚はさっぱり分からないけど、分かったよ」
彼の瞳は宙を泳いでいます。しかし、俺には関係ないことです。
彼は確かに俺の『友人』ではありますが、友人だからと言って全てが理解できるとは思えません。全てが理解できると思える方が野暮、無意味と言えるでしょう。
特に、俺のことならば、尚更です。
「それに聞き捨てなりませんね。俺がまるで男でないような発言をするとは。これでも少し、親指の爪の先ほど気にしてはいるのですよ?このどちらの性別ともつかない外見のことは。
俺はあの女に興味がない、どころか憎悪すら抱いているだけで、欠片の性欲も持ち合わせていないという訳ではありませんよ。(自主規制)は(自主規制)ですし、(自主規制)を(自主規制)するときには(自主規制)で(自主規制)だというのに。ああ、ちなみに聞かれる前に答えておきますが、俺はホモセクシャルではありませんよ?バイセクシャルです」
「……お前がそんな俺すら公然と口にできないような言葉を口にすると……なんつうか、ものすごくセクハラしてる気分になって恥ずかしいんだが。というかそれを聞いても全く安心できないって分かるか?な?」
「……知りませんでした。もしかしたらそっちの気があるのは貴方の方だったんですか?俺個人は大嫌いとはいえ一応女という性別を持って生まれたあの都山留衣と一緒にいる以上少なくともノーマルな性癖の持ち主だと思っていたのですが、俺を見て顔を赤らめるなんて。もっとも、何度もいいましたが俺は別に男でもかまいませんよ?在野なら特に喜んで歓迎します」
「違うっつの!なんで突然俺ガチホモ認定!?ひどくない!?阿部さんじゃあるまいし!?トイレの中でくそみそテクニックですか!?お前はノンケでもホイホイ食っちまうような男なんですか!?勘弁してくれ俺にはそういう趣味はないから!ていうか最後の台詞が果てしなく怖いんだけど!?第一お前のその発言が危険すぎるんだよ!お前その顔でそういう発言すると、『こんなにきれいな子が女の子のはずがない!』層にマジで食われるぞ!いいのか!?」
「いいも何も、もう既に遅いですけどね」
「うわああああああ!聞きたくなかった!最高に聞きたくなかった!想像しちまって嫌すぎる!俺アニメとかゲームとか大好きだけど腐女子の思考だけはいまだに理解できねえよ!何よりそれを平然と語るお前が俺わかんねえよ!今のお前の台詞は友人から聞きたくない台詞第2位にノミネートされたよ!ちなみに1位は『おれ、昨日童貞卒業したから』だけどな!」
何を今さらわめいているのでしょうか。俺の学校での評判を聞き比べればそれくらい分かるでしょうに。……彼らしいと言えば彼らしいのですが。
「平然としているのは当然でしょう。俺は両刀ですからね。誰でもおいしくいただけます」
「……あれ、何だろう……ちょっと俺貞操の危機感じたよ……たすけてえーりん……」
「来るもの拒まず去る者追わずなので安心してください。自分から手は出しません……多分」
「何がどう安心なのか分からない!あと最後の多分は何!?どういう意図が!?」
「しかし、女性は男同士の肉体関係をどうにも美化しすぎるきらいがありますね。実際にやっていることなど(自主規制)を(自主規制)に(自主規制)するだけだというのに。それだけの行為のどこに美を見出せるのか分かりかねます。肉欲を満たすためと言うのならまだわかるのですが」
「あれだよ、行為そのものじゃなくてな、そういうことをサクみたいな美人がすることに萌えというかときめきを感じるんだろ。不細工×デブとかじゃだめってことだろ。※ただしイケメンに限る ってやつだろ。俺みたいな奴には縁がないってことさ」
「ということは、つまりこれの読者には貴方の受けより俺の受けの方が需要があると……ふむ、一度試してみてもいいかもしれませんね」
「なんでマジで真剣な顔をしてるんですか、しかもなんで俺を見てるんですかサクさん!?いいよいらないよ!第一俺はバイですらないから俺を巻き込むのやめてえええええ!」
「俺は貴方も一部の人間には需要がありそうな気もしますがね。俺は貴方のことを貴方が言うほど縁がないとは思いませんが……」
「だからもうその話やめない!?なんでそんなに食いつくの!?つか友人をネタにするなよ、お前もうじゃれあう三次元男子を見て萌える女と変わらねえよ!」
彼が本格的に青ざめてきたところで、話題を変えるとしましょう。
彼をからかうのは実に面白いのですが、今日は別に彼にしたい話があったのですよ。
「そうですか?貴方は、どうにも変人に好かれやすいようですし、ありえると思いますよ」
「……おい、話の飛びっぷりが半端ないぞ。……誰のことだ?お前とか?」
「そうですね」
「えっと、いやあっさりうなずかれても反応に困るんだけどさ」
彼は頭をかき、困ったように笑いました。
「本当のことですから。俺は変人ですよ。それを俺はよく分かっているからここにいてこんな暮らしをしているのです。俺は自分が異質なことに気づいていながら、異質でない空間に無理やり介入しようとする類の人間が大嫌いなのでね」
「別にいいじゃねえか。ようはまともじゃないのにまともなふりをしてるってことだろう?協調性あるってことじゃん。何が嫌いなんだよ」
「異質は異質であるべきなのです。向こう側から望んで侵入してくるならともかく、自分から意図的に普通に溶け込もうなど愚かな行為です。ましてや―――自分の『異常性』を『長所』と捉え、普通の人間を見下し憐れむような存在は人と思いたくもありません。何故かって?『異常』は『異常』で、それ以外の何者でもないからですよ。異常者には異常者なりの暮らし方、死に方というものがあるんです。そして同時に異常とは『以下』です。神も天使も超能力者も未来人も宇宙人も天才も全て、普通の人間になりえない劣った存在なのです。それを誇るなどおこがましいにも程がある。
黒が白に少しでも交われば、白はあっという間に黒に染まってしまいます。この場合、俺たちは黒で一般の人間は白ですね。そうなれば、もうどれだけ他の色を混ぜようとも白は白には戻りません。分かりますね?
貴方に言うのもどうかと自分でもほんの一瞬だけ思いましたが、貴方も既知の事実だろうと思うので言わせていただくと、俺は都山留衣が嫌いです。大嫌いです。ええ、それはもう同じ空気を吸うのも、同じ地を踏むのも、同じ星に生活しているということすら不快なくらい嫌いですね。理由は先ほど言いましたが、彼女は女神などと自称しておきながら、平然と普通の人間としてふるまっている!矛盾しています。俺は神など牛の糞以下の存在、人間『への』冒涜以外の何物でもないと思っていますがね、仮に神というものが立派で人間が敬うべき存在だったとしてですよ、もし彼女が真の神ならば、彼女が人間としてふるまえるはずなどないのですよ。
なぜならその神は、異質の中の異質。エラーオブエラー。人間とは常に並走し続ける異常。人間よりはるかに劣った、低俗な生物。そんな存在が人間になれるはずがない。それなのに彼女は自分が神であり完璧であるが故に『普通』を演じられると思っている!あまりの腹立たしさに絞め殺したい気分になりますね。
神であるからこそ普通でいられるはずがないのに、神であるからこそ普通であると信じられる、破綻しすぎて突っ込む気力すら湧きません。
俺はですね、人間が大好きなんですよ。それも特殊な人間ではなく、この世界に生き平凡な生活を送る人間が―――です。もっとも異常な人間が嫌いだということではありません。俺は俺のことは好きですしね。都山留衣は憎いほど嫌いですが」
「……サクが留衣のことを嫌いなのはよく分かったけどさ、でもそれっておかしくない?だってサクは俺の友人なんだろ?」
「一応名目上はそうですね」
俺と貴方の関係を一言で簡潔に表すなら、そうでしょう。
本来貴方と俺は友人になれはしないのですが、在野がその言葉を好みますからね。
在野の前では『そう』呼ぶことにしています。
「つまり、サクは今超普通の人間である俺と友達ってことだろ?で、サクは異常な人間だとする。そしたらさ、サクは俺と、つまり普通と溶け込んでることにならないか?」
彼の顔には曇りなどなく、ただ単純に頭に思い浮かんだ疑問を口にしているだけに見えました。
計画性も、こちらを挑発しているようにも見えません。
ごくごく普通の―――きょとんとした、愛らしい様子でした。
……一つだけ、分かりません。
彼がこれを、無意識で行っているのか、それとも知った上で俺を試しているのか。
俺は天才の麗人ではありますが超能力者でも、ましてや神などというちっぽけで屑切れのような存在でもありませんから、彼の心の中を読むことは不可能です。
「貴方は十分に異常ですよ」
「うわ、傷つくなあそれ。俺そんなにうるさい?いや、皆そういうけどさあ、自覚も一応あるけどさあ、それでもそんな変人扱いされるほど変、俺って?」
「いえ、そこではなく」
教えてやろうとも思いましたがやめました。
異常性というものは、誰よりも自分が強く感じ取るものですし、俺が指摘するよりも彼が自分で気づいた方がいいでしょう。
彼はおそらく自分の異常を理解したところで都山留衣のようになることはないでしょうが……。
「……」
「な、なんで黙るの!?怖いんだけど!?俺なんかやばいこと言った!?」
「いえ、大したことではありません」
「教えてよ!そういう焦らしプレイは留衣なら嬉しいけどサクだと怖いだけだから!」
さて、これは彼に対して忠告をしておくべきなのでしょうか?
彼はどちらかと言えば『異常』に属する人間ですから、俺自ら説明しておいても問題ないとは思うのですが……
しかし―――いや、そのような考えは野暮ですね。
「……分かりました。本当は面倒くさくて口を開くのすら億劫なのですが、貴方がどうしてもというから仕方なく、100万光年分ほど譲歩して、地獄の業火で焼かれるほどの不愉快な気分に陥りながら話しましょう」
「いや、なんか悪かった、うんごめん。本当ごめん。問い詰めてすみませんっした!」
在野に謝られたことを少し楽しく思いながら、俺は話します。
「『自分』のことを大好きな人間には、気をつけた方がいいですよ」
「……ふえ?待って、意味分からん。自分って……俺?俺のこと好きな人間?あれ、もしかして美少女転校生がクラスにやってきて、実は貴方の許嫁なんです!みたいなギャルゲ的な展開が待ってるの?それは最高だな!」
「いえそうではなく。―――都山留衣や俺、遠坂妃芽のような異常な人間に、あまり深くかかわらない方がいいですよ?……もう遅いかもしれませんけどね」
「……留衣やサクが自分大好きってのはうん、ものすっっっごくよく分かるけど、何に気をつけるんだ?別に『今日から殺し合いをしてもらいます』って担任から言われるとか、修学旅行でバスの転落事故に遭うとかじゃないんだろ?」
……俺が都山留衣と並列に語られるのは心外ですが、彼に免じて我慢しましょう。
「ギリシア神話のナルキッソスは、他人を愛することができなかったために自分を愛する呪いをかけられました」
「あの、サクさん?脈絡ないですよ?」
「そして彼は、水面に映った自らを見て恋に落ち―――その美しさの虜になりその場から動くことも叶わなくなり、そのまま死に行ったそうです」
「え、だからどういうこと?俺歴史さっぱり分からないんだけど。ギリシアってどこだっけ?ヨーロッパ?」
「彼らが自分の美しさ、もとい才能に溺れ、そこに留まることしかしていない時、貴方は余計なことをしてしまう。放っておけば、そのまま相手は死んでしまえるのに」
「……俺ってそんなおせっかい?」
「彼ら、異常な人間と言うのは『他人』を愛さない。―――愛することができない。彼らは代わりに『自分』を愛することしかできず―――その理由をもまた疑わない。そしてそれに対して、いかなる矛盾も感じていない。自分がどうしてこんなに優れているのか、愛おしいのか―――それに対して考えることもない。それがただ生まれた時からの『運命』ででもあるかのように、ただ盲目にひたすらにそう信じるしかない。
たとえば水口在朝は―――周囲を見下すことで、自分を愛する糧にしている―――それに対しての、疑惑など彼はおそらく持っていないでしょう」
そう、そんな普通の感情を、普通に持つことが許されるから。
俺は神などよりも―――普通の人間が好きなのですよ。
もっとも、俺が一番好きなのは、『俺』ですけどね。
「だーかーら、俺は哲学的な話は分からないんだって!つか、なんでそこにトモが出てくるんだよ。あいつはただの俺の弟だって」
「でも貴方はそうではありません。俺にも貴方がどこまで思っているかは知りませんが―――貴方はその『前提』を捻じ曲げる力を持っている。それは愛であったり、他の何かであったりしますが。貴方は『異常』な人間に、本来ならありえない『感情』を抱かせてしまうのです。
―――自分を愛することしかできない人間に―――『他者愛』を抱かせ、心を乱す、そんな、存在なのですよ。
何故そうなったのかはさっぱりわかりませんが……。実際にあの忌々しい都山留衣は貴方の貴方の『力』に半分呑まれているように思えます。これは、一見幸せなことにも思えますが、そうではありません。
それ―――彼らが自分以外を愛すると言うことは、本来なら知らなくてもいいこと、気づかなくてもいい、むしろ気づくべきではないことです。それを貴方は強引にこじ開けてしまう。その先は―――パンドラの箱なのです。必ず宝石が眠っているとは限らない。目覚めたその人物がどんな方向に向かうかなど、誰にも分からないのですから。貴方がその力を『本当に』コントロールできないのなら―――あまり深入りしない方がいい。もちろん、俺にも、ですよ?」
「……悪い、頭痛い。何の物語?サクは作家になれるよ。俺が保障する。分かったからその電波な小説はパソコンに向かって打て、な?」
「……分かりました」
これ以上言ったところで、彼が気づかないのならば何の意味もありません。
これは彼自身のこと―――俺が彼に忠告したところで、彼がその危険性を理解しなければ状況は改善されないのです。
「しかし、覚えておいてくれれば俺としては嬉しい限りです」
「……まあ、覚えておいてもいいけどさ……頼むから今度からはメモに残してくれ、覚えられないよ」
「分かりました」
今度は貴方に分かりやすい言語に直しておきましょう。
もっともそれでも『真の』意味を理解できるかは分かりませんが―――仕方ありませんね。
彼の頭が悪いから、ではありません。
『俺』が、『異常』、だからです。
『俺』が、『偉大』で『崇めるべき』存在である『人間』に、正しく言葉を伝えられるなんて、思えませんからね。
人間が、犬の言葉を理解できないのと同じように。
虫と鳥は、食物連鎖以上の関係を持てないのと同じように―――分かり合えない。
一方的に『愛する』ことはできても―――互いに理解し合うことは不可能なのです
「まあ、理解できた範囲で一応言っておくけど、俺は留衣との『約束』を破るつもりもないし、お前との友人関係を切るつもりもない。だいたい俺はただ付き合いたい奴と付き合ってるだけで、それが『好かれてる』とか言われても知らないっつうの。あとさ、」
彼はそこまで言って一端言葉を切ります。
そして。
「サクは間違ってるよ。だって、サクは俺の友達だろ?そう思ってくれてるだろ?」
「ええ」
「それじゃあさ、それって『愛を理解してない』って、言わないと思うんだ」
……一瞬、言葉を失いました。
俺はどう返せばいいのでしょうか?見当もつきません。
確かに俺は在野の『友人』ですが―――しかし、俺は、人間ではないのですから。
「いやいやいや、何言ってんだ俺!臭すぎて気持ち悪いんだけどさ、家族を思う気持ちとか友達と仲良くしたいって気持ちも一種の愛じゃないの?つか恋愛だって本当に『愛』なんだかわかんないし。つか愛って何よ?この世界に『これはまさしく愛だ!』って定義なんてないと思うんだぜ。ほんの少しでも好きになれる人がいたら、もうそれは別に愛って言ってもいいんじゃない?って思っただけなんだ。サクの考えてることは俺にはさっぱりだけど、サクが普通の人間より駄目みたいなことは絶対無いと思う」
……成程。そうですね。……ああ、ちゃんと理解しました。
やはり貴方は―――異質でありながら、俺たちとは根本的に違う。
貴方は、……少なくとも俺たちと同じ自己愛に浸食されていない。
彼を満たすのがどんな『異質』なのか―――分からないが故に、興味深い。
もっともっと、彼のことを知りつくし―――しゃぶりつくしてみたいものですね。ゆっくりと、じっくりと―――舐めまわすように、ね。
だから俺は、彼に好意を持っているのです。ああ、友情的な意味でもありますし、性的な意味でもありますが。
「だから、友達同士で距離置くとか、そういうこと言うのなし、いいな?」
いいな、も何も。
貴方はそう答えるに違いないと思っていましたけれど。
「……もちろんです。……長い話に付き合わせてしまって申し訳ありません」
「いやいや、俺もわざわざここに息抜きに来てるわけだしいいって」
「息抜き……ですか。そういえば言い忘れていたのですが」
「何だ?」
「実はもう昼休みが終わって10分ほど経過しているんですよね。息抜きにしてはやや長すぎやしませんかね」
「そんな大事なことを言い忘れるなああああああああああああ!」
「貴方がいつか気付くといいなあ、でも多分気付かないだろうなあ、友人として教えるべきかなあ、でも在野だしどうなろうといいか、と考えていたら言い忘れていまして」
「最後の在野だしいいか、に悪意こもってない!?」
彼はこんな場合じゃないとつぶやき、あわてて保健室から出て行きました。
……全く騒々しいですね。彼のそんなところは嫌いではありませんが、俺はこう見えてもデリケートなんですよ?
時間は一時十分。昼寝をするにはちょうどよい頃合いです。
眠気も出てきましたし、この辺でお開きにしますか。
……でもその前に、一度まとめておきましょうか。
『貴方』の、ために、ね。
―――さて。
これで、『彼』と彼を取り巻く俺の愛しき―――ただし一名を除き―――人間たちの紹介は、一通り済んだことだと思います。
これから始まるのは―――何、大したことではありません。
これから始まるのも、日常ですよ。ただの、『日常』。
少しばかりそれが奇妙なものであったとしても、それは日常の域を大幅に逸脱することはないはずです。
『俺たちにとって』は、の話ですが。
少なくとも、魔法使いが空を箒で飛び交うだとか、俺の忌々しき神が超能力を使うだとか―――そんな展開はこの先『起こらない』と、保証しましょう。
いや、むしろ『起こるべきではない』と言い換えた方がいいかもしれません。起こられたら俺が困ります。
……え、何ですって?俺の名前は?
貴方は失礼な人ですね。どうしてもっと早く聞かなかったのですか?
……自分は『見ている側』だから声などかけられるはずがない?愚かですね、やろうともしていないのにどうしてそんなことが分かるのですか?チャレンジ精神、という言葉が貴方の役立たずの辞書には載っていないようですね。
―――まあ、いいでしょう。見たところ貴方は『異常』ではなさそうですが、こちらの事情は察しているようなので、ね。
俺は傑作為。
傑作を為すと書き―――また同時に作為的に傑(つく)ると書いて、すぐりさくい。『彼』は俺のことをサクと呼びますがね。
ああ、ちなみに本名ではありません。偽名です。本名、ですか?そんなことを聞いて何が楽しいんですか?そんなに気になるんですか?そんなことはありませんよね?貴方は俺のことなんてどうでもいいですよね?そうですよね?そうだと俺は信じていますよ?
……失礼、少々取り乱してしまったようです。
では、本題に。
これから始まるのは―――俺、傑作為を含んだ、ある『異常者』達の日常。
水口在野と、その周囲を取り巻く、『自己愛』の行く先と結末、です。
過度の期待は禁物です。あまり期待もされたくありません。第一期待に答えたくもありません。
何が起こるかはまだ分かりませんが、しかし、2つだけ確実に言えることはあります。
1つは、先ほども言いましたが貴方のためにもう一度。この物語には魔術だとか超能力に値するものは出てこない、ということ。そんな神と同じくらい信用ならないものに、人間が支配されるなんて―――最高に詰まらない笑い話だ。
そしてもう1つは―――その物語のどこかに必ず『彼』―――水口在野の存在があるということです。
時に事件の中心に、時に気づかないくらいわずかなすれ違いで。
全く無関係に思えても、無関係ではない―――彼は必ず、何らかの影響を与えているはず。
その理由はわかりません。俺を持ってしても不明です。―――さすがに超能力だなんて馬鹿なことではないと思いますがね。ありえない。
ふあ……もうこんな時間ですか。申し訳ないのですが、そろそろ眠らせていただきますね。
3時には森崎先生の『相手』をしなければならないので。全く、人間の男性と言うものは面倒くさいものですね。俺も(自主規制)などという面倒なことをしなければなりません。俺だって生物学的には男ですから、当然(自主規制)で(自主規制)だったりするわけですが―――おっと、それも貴方には関係のないことですね。
ああ、同情は要りませんよ?俺は全く気にしていませんので。むしろ楽しんでいますから、お気づかいなく。
では、またいずれ。
次に会う時が―――貴方にとって平和なときであることを。
そして、貴方にとっての日常が―――『異常』でありませんことを。
これで全員集合!まああと一人いるっちゃいますが、プロローグはここまで。
次回から一話の始まりです。
サクはガチホ……少々濃いキャラではありますが、よろしくお願いします。
いずれプロフィールあげますね。
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