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短めの一次&二次創作を思いついた時に更新します。本館はプロフィール参照です。
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プロローグ①
 

続きからどうぞ。



 
女神と下僕・1
 
「私は完璧な人間だ」
そんな『冷静に考えればしごく当然だった』事実に私が気付いたのは、いつだっただろうか。
どこかの誰かには10歳になったころだと言ったような気もするが、正確なところは覚えていない。
そんなこと……時期などは重要ではない。
大切なのは、私が『完璧』だということなのだ。
 
両親からも、クラスメイトからも、教師からも、―――私は賛辞の言葉以外を投げかけられたことがなかった。
それも当然。何故なら私は成績優秀で、運動神経もよく、人づきあいもうまく心優しく、全てにおいて抜群の才能を発揮する絶世の美女だったのだから。
私に欠点などあるはずもなく―――私はどんな人間より優れている。
 
私はある日、そう『自覚した』のだ。
 
私という存在は、もはや罪と言ってもいいかもしれない。普通の人間からすれば、私のこのあふれんばかりの才能は目に余るものだろうし、また評価できるようなものでもないからだ。美しきは罪と言うが、私の場合は美しさも含めた存在そのものがこの世界のエラーにも似ているのだろう。
全ての人間が美しく賢く優れた私に見惚れ、憧れ、焦がれるのは当然のこと。そして同時に、そんな私を妬み、憎み、身分不相応の性的な欲望を抱くのもまた当然のことだ。
私はそれほどまでに完璧―――全能な存在なのだ、仕方ない。そこに人種や性別の差などあるはずもない。
 
昔は、私だってそれらに多少感情的になっていたことはあった。いちいち彼らの負の感情に対して苛立ち、好意に疲労していたこともあった。しかしやがて私は、そうすることがなくなった。
何故か?
それは、私は同時に―――自分が完璧な存在だと認識したと同時に―――理解したからだ。
彼らは、私より劣った『生物』なのだと。
いや、正確に言うならば―――この私が、人間ではなく、―――人間『なんか』よりずっと優れた、『女神』と呼ぶに値する存在なのだ、と。
 
普通人間は、犬や猫が粗相をしようと本気で怒ることはない。多少のしつけはしても、大抵は「可愛い」で済ませてしまう。それは何故か、それは犬や猫は人間より下等な生物だから仕方ない、とどこかで理解しているからのはずだ。
どうせ犬や猫は、人間ほど賢くはないのだから、多少の粗相くらいは当然のことだ、と。
だから、私も同じ。
自分より下等な存在である人間が何をしようと―――どんなに無礼を働こうとも、身分不相応な好意を持っても―――私には、関係がない。
彼らは自分より下なのだから、むきになっても意味がない。むしろそれどころか、可愛くすら見えてくる。
 
だから。
私は、そのような思考で、人間を『愛する』ことにした。
私より下等な生物である人間たちに、見下すでも罵るでも蹂躙するでもなく、『女神』らしく慈悲をかけてあげようと。
どんな愚かで、馬鹿で、差別を受けている人間にも―――人間だけではない、この世に存在する生物全てに平等に―――私は『女神』として、優しく、平和的に接しようと。
たとえ私に憎悪を抱く無礼者がいたとしても―――私を殺さんとする罰当たりな人間がいたとしても―――それすらも、私はおおらかに許容し、許してやろう。
それが、女神の役目であると。
そう、思っていたはずだった。
そう、決めていたはずだった。
 
―――あいつに、会うまでは。
 
 
ある日の放課後。
今日も、あの『馬鹿』が―――五月蠅い。
 
「なあ留衣!聞いてくれよ!実はさあ、今朝すごいこと聞いちゃってさあ!何がすごいって、もう本当にびっくりなんだけど、どのくらいかっていうと昨日俺のクリアし終わったエロゲーで主人公が女装して前作主人公に(性的な意味で)犯されるエンドがあったってことくらいかな!いやマジあれめちゃくちゃ衝撃だったんだぜ!?主人公が普通に可愛いのもあれだし、ヒロインというか俺の大好きな言葉様のCGは少なかったのに何故かそこの部分だけえらく尺が長いっていうね。
いやいや確かに可愛い子は好きだけどさすがにホモは・・・・・・いやでも「こんな可愛い子が女の子のはずがない」系なら別にいいのかもしれないけどさあ。
あ、でも安心して留衣、俺は別にホモでも同性愛者でも何でもなくて留衣一筋だから!ああそうそう、一筋といえばこないだの火サスで殺人の動機が「愛する人を殺されたことに対する復讐」って女性がいたけど、それってある意味ヤンデレだよね?一途なのはいいけど三次元のヤンデレはやっぱちょっと怖いと思ってさ、あれそういえば俺って何を話そうと思ってたんだっぐふっ!」
 
反射的に腹を殴ってしまった。
……大丈夫、誰も見ていない。当たり前よ、見られても困るもの。
クラスメイトには馬鹿が勝手にどこかに腹をぶつけてもだえているように見えることだろう。
こんなに華麗に『指導』ができるのも、私だからよね。
愚かな人間には決して出来ない芸当だわ。
 
「痛い、痛いよ留衣酷いよ、で、でも留衣に踏まれるのも意外に悪くないかもしれない、こ、今度はよければボンテージか何かを着て鞭を持って、「あんたは本当に愚かな雄犬よね」とか言いながら踏んでくれたら俺は喜んでげふうっ!」
昼間からなんという話をしているのだろう。思わず足を踏みつけてしまった。
もちろん今度もばれていない。
私でなければ、とっくの昔にこいつの傍から離れている。
……私で卑猥な妄想をするんじゃないわよ、相変わらず失礼な奴ね。
こんなくだらないことしか考えられないから、あんたはいつまでたっても馬鹿なのよ。
もう少し、まっとうな人間にならないと困るじゃない。
この―――『女神』の私の隣にいても恥ずかしくないくらいの『下僕』になるべきだわ。まあ、『蠅』には無理な話かもね。
 
「在野、今の時間を忘れないようにね」
「昼間だから下ネタは駄目だって!?はん、そんな理屈は俺には通用しないぜ!俺は真昼間だろうと子供の目の前だろうと純粋な女の子の目の前だろうと!自分が話したい時にエロい話をするっ!!!!」
撥ねた茶髪をわずかに揺らして得意げに胸を張る―――ああ、こいつ、馬鹿だ。
何故こんなに得意げなのかしら?理解に苦しむわ。
こいつがわいせつ罪で捕まっていないことが不思議でならない。
「ああ、でも留衣が嫌だったら言ってね!?俺もさすがに嫌がってる女の子に下ネタを強要するほど鬼畜じゃないんだぜ!まあ個人的には留衣が下ネタ嫌がってるのを想像するだけでにやにやしてくるんだけど!」
またこいつは私を勝手に妄想して盛り上がり始めた。
どうしてこの私が、人間の話を嫌がらなければいけないのか。
好きでもない、興味がない。
バード・ウォッチングが趣味でない人間が鳥の声を聞いたところでただ騒がしいと思うだけ―――今の私は、まさしくその心境だった。
ああ、本当に、騒がしい。
「…………はあ」
まだ目の前で何やら話し続けている馬鹿を見て。
思わず、溜息が洩れた。
 
―――ああ、そうね、私について説明していなかったわ。
いきなりこんな馬鹿が出てきて、何のことか分からないでしょうし。
本来なら人間なんかに自己紹介をする価値もないのだけれど―――私は女神だから特別よ。
特別に、教えておいてあげるわ。
 
私は都山留衣(とやまるい)。
現実世界では高校二年生という肩書きを持つ―――『現代の女神』。
人間を愛し、慈悲を掛け―――人間に崇められ慕われるべき存在よ。
……どうして女神なのかって?説明しないと分からないの?
そんなの、私が完璧だからに決まっているじゃない。
欠点など1つたりともなく、この恵まれた美貌。これで私を女神だと思わない理由が分からないわ。疑いようもない事実じゃない。
もちろん誰から言われたわけでもないけど―――でも、私がそう確信するのも当然のことでしょう。むしろ、人間たちは私をもっと崇めるべきよね。
人間たちは美しい私に見惚れるばかりで、信仰しようという人間は全然いないのだもの。やはり無神教の国は駄目ね、現代の神がそばにいることにすら気が付いていないのだから。
 
そして、この騒がしい男は、馬鹿。
本名は水口在野(みなぐちありや)だけれど、私が名前を呼ぶ価値もないので普段は馬鹿と呼んでいる。ああ、もちろん他の人間がいる前ではちゃんと呼んであげているけどね。
そしてこいつは―――人間の底辺だ。
馬鹿。とにかく馬鹿。わざわざ言葉で着飾る必要もないくらいの馬鹿。五月蠅いという言葉のごとく五月の蠅のように鬱陶しい存在だ。
私を『愛して』いて―――ゴキブリのようにしぶとく付き纏ってくる迷惑な男。何度殴ったり蹴ったりして『指導』してやっても一切懲りる気配がない―――どころか、むしろ喜んでいるような態度すら見せる。
正直気持ち悪いを通り越して、苛立たしいわ。
それでも、私は見捨ててやらないけどね。
 
「で、結局何なの?」
ほら、こうしてちゃんとこいつの話を聞いてあげているでしょう?
普通だったら無視するというのに、私はなんて心優しいのかしら。
そう、その結論がものすごくくだらないことじゃないかと―――うすうす見当はついていても。
このままスルーしていれば、この馬鹿は話題を忘れていたんじゃないだろうか、と思いつつも。
馬鹿は私の言葉に案の定、「今思い出した」と言わんばかりにぽんと手を打ち―――よく回る舌で再び喋り出した。
「そうそう!実はさ、うちの校長カツラだったんだよ!」
 
……やはり、ものすごくくだらなかった。
ええ、分かっていたわ。分かっていたわよ。だって馬鹿だもの。
馬鹿だからきっとまともなことじゃないに違いないとは思っていたけれど―――でもそれでも、さすがに呆れざるを得ない。
……何故かしら、無性にイライラしてきた。
何でこんなくだらないことを楽しそうに話せるの?理解できない。
 
「俺が駈と倉庫の掃除してたら校長が強風にあおられてカツラを押さえてるのを見たんだよ!前から噂はあったけど本当だったとは思わなかった!やばいwwwwみwなwぎってwwきたwwww
もし俺が校長室の花瓶とか割ってしまったとしてもこれで弱みを握れるな!」
そんなマンガみたいな展開は滅多に起こらないだろうに。
そんな馬鹿げたことを平然と考えられる時点でこいつがいかにマンガ脳なのかが分かるというものだろう。知性の欠片も感じられない。
ほとほと呆れかえってしまうわ。
 
そう、本来なら私が―――私のような女神が、こんな騒がしい蠅と行動を共にしてやる理由などありはしない。
本来なら、女神たる私とは会話すら許されないだろう。
こいつに好意も、興味も、同情もありはしないのだから。
今すぐ見捨てて行ってもいいくらいだ。
それなのに私がそうしないのは。
 
こいつが、あまりにも馬鹿だからだ。
 
性格は見ての通りの馬鹿、脳が回転するより口が回るほうが早い究極の喋り好き。しかもその99%がくだらない妄想や戯言で、いつも勉強もせずに遊んで喋ってばかり。正直言ってうっとうしいことこの上ない。私以下の人間の中でも更に駄目人間だ。私の慈悲がなければどんな問題を起こして誰に迷惑をかけるかしれたものではない。
しかし『だからこそ』、私はこいつと一緒にいて『あげて』やって、馬鹿な話に付き合い、―――こいつが『私のことを好きだということを』仕方なく受け止めてやっている。
こいつは救いようもない馬鹿だ、私がいなければ皆に見放されてしまうかもしれない。
いくらこいつがどうしようもない馬鹿でも―――それを理由に見捨てるなんて、女神の『慈悲』が許さない。
むしろ馬鹿だからこそ、この女神たる私がこいつを見て教育し、指導し、少しでもまともな人間になれるように、そして他人に迷惑をかけないようにしてやるべきではないか、という使命感にかられたのだ。
神というのは常に人間を導くもの、と決まっているものだから。
たとえ一向に改善の余地が見られなかったとしても、慈悲深い私はこいつのことを見放したりしない。さすが、私って女神よね。
もちろん、正直こいつに嫌気がさすことはある。というより毎日だ。しかしそれでも私はこいつの隣にいてあげている。私の優しさに眩暈がするわ。
 
だから、そう、これは『こいつのため』であって。
こいつが馬鹿なことをしないように、私が保護者として見てやっているだけで。
私自身がこの馬鹿と一緒にいたいからだとか、そんなことは絶対に―――ありえないのだ。
人間、しかも愚かな人間と女神が釣り合うはずないでしょう?
 
「……そんな展開は簡単に起こらないと思うけどね」
こんな馬鹿にわざわざ正論を口にしてあげる。
どうせ馬鹿だから伝わらないとは思うけど、女神だしね。
「そんなことないと思うぜ?結構世の中ってキセキとか溢れてるし!漫画みたいなことが起こってもおかしくない!俺に言わせるなら、そもそも俺がこうやって留衣と一緒に話せるのも奇跡みたいに嬉しいことだしさ」
バカみたいなへらへら顔で―――馬鹿が笑う。
間抜け面だ、以外の感想など浮かばない。―――はずなのに。
 
『俺、都山さんのこと、好きなんだ』
どうしてだろう。
どうして馬鹿の言葉を聞いて―――あの日のことを思い出したんだろう。
『都山さんは美人だし、エロいし、……じゃなかった、頭もいいし、簡単に言うと俺の好みクリーンヒットっていうか、えっと、そう、そうなんだよ!』
馬鹿が、私に『告白』してきた、日。
このおこがましい下僕が―――女神たる私への許されざる恋心を吐露してきた、日。
私がこの馬鹿を、『教育』しようと決めた―――日のことを。
『つまり何が言いたいかって言うと俺が都山さんにメロメロ、じゃない違う、全てが好きだってことなんだけどさ、』
語彙力もなく、どもってまともに発音もできないくせに、舌だけは良く回るこいつが、私に言ったことを。
『でも、一番好きなのは―――』
 
―――都山さんの、―――
 
その時、―――チャイムが鳴り響いた。
馬鹿はそれに目ざとく反応し、うわあもう授業かよ、とぼやく。こいつは頭が悪いから勉強が苦痛なのだろう。全くこれだから馬鹿は。私にかかればできないものなどないので、愚民の考えはさっぱり理解できない。
―――私も気持ちを切り替えよう。……今思い出した『忌まわしい過去』のことは、忘れる。神の頭脳を持つが故に完全なる忘却が出来ないのは悩ましいところだが―――意識に上らないようにすることはできる。
あんな屈辱的なこと―――思いだすだけで怒りで顔が熱くなる。
頬まで赤くなってしまって、―――人間の『照れ』みたいで、嫌なのよ。
私が馬鹿に、そんな感情を抱くはずもないのにね。
 
「やっべえ先生来た!じゃあ留衣また!」
勝手に一人で慌て、わめき―――馬鹿は私にそれだけ言って、逃げるように席に戻った。
 
「……」
何を言っているんだ、大袈裟な。
またも何も、同じクラスですぐに顔を突き合わせるだろうに。
馬鹿は言葉も知らないのね、そう考えもう一度そっと溜息をついた。
女神も楽ではない、あんな馬鹿と対等に話さないといけないのだから。
あいつといて、心が休まったこともない。私を愛しているのなら、もっと私を『崇拝』すべきだというのに―――
 
―――ああ、本当に、馬鹿。
 
そう呟いたのは。
私が、心から馬鹿に呆れているからで。
決して、間違っても―――好きだなんて、ありえないんだから。


 
 
あとがき
いきなりこんな感じで始まりました。よろしくお願いします。
ところどころ内容変えているので、改訂前読まれた方も読んでくれると嬉しいなあ
ちなみに在野が冒頭で言ってたゲームは実在します。
なんだそりゃ!?と思った方は「crossdays 攻略」でググろうか……。

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